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広報塩尻令和7年6月号テキスト版 6ページから7ページ
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塗り 木曽漆器を彩る技術
本市が誇る国指定の伝統的工芸品「木曽漆器」。今回は、木曽漆器の塗りの技法のうち、「木曽春慶(しゅんけい)」「木曽堆朱(ついしゅ)」「塗分呂色塗(ぬりわけろいろぬり)」の特徴や魅力を紹介します。
問い合わせ 商工課 商工係 直通電話0263-52-0871
Interview 木曽漆器工業協同組合理事長 小林 広幸さん「写真」
木曽漆器工業協同組合理事長の小林さんに、木曽漆器の歴史や塗りの特徴的な技法について聞きました。
約400年の歴史がある塩尻市の特産品
木曽漆器は、17世紀初頭から制作が始まったといわれ、約400年の歴史があります。木曽平沢の恵まれた風土と、交通の要衝に位置していたおかげで木曽漆器は発展してきました。江戸時代には尾張徳川家の厚い保護を受け、中山道を旅する人々の土産物として人気を集めました。
明治時代の初期には、下地作りに使える錆土(さびつち)粘土が発見され、より使い勝手のよい漆器が作られるようになります。錆土粘土は鉄分を多く含むため、他の産地よりも丈夫な漆器を作ることが可能になり、全国的に木曽漆器の名前が知れ渡るようになります。
戦後の高度成長期には、庶民の生活に欠かせない日常の器以外にも、旅館やホテルの高級な業務用漆器など多種多用な製品が作られるようになりました。そして、座卓など大きい物にも木曽漆器の技術が施されるようになります。
木曽漆器を彩る三つの技法
木曽漆器の特徴は、長く使用するほど温(ぬく)もりのあるつやが増し、丈夫になっていくことです。特徴的な技法には、「木曽春慶(しゅんけい)」、「木曽堆朱(ついしゅ)」、
「塗分呂色塗(ぬりわけろいろぬり)」があります。木曽春慶はヒノキなど良質な木材を使用して下地を付けず、生漆(きうるし)を繰り返し擦り込み染み込ませて、木地の美しい木目を生かす技法です。木曽堆朱は木地に下地を付けて、漆を多く含んだ道具を使用して模様付けしていきます。塗分呂色塗は、色漆を数種類使用して塗り分けていき、上塗りが乾燥したら丁寧に表面を磨きます。木曽堆朱と塗分呂色塗は何回も漆を塗るため表面が丈夫になります。
木曽漆器を後世につなげたい
漆塗りの食器の一番の魅力は、深みのあるつややかな光沢と、使い込むほどに味わいが増す独特の風合いにあります。職人の手仕事によって一つひとつ丁寧に塗り重ねられた漆は、まるで器に命を吹き込んだかのような温もりを感じさせます。このような特徴や仕上げる塗りの技法を知っていただき、ぜひ若い人にも使ってみてほしいですね。
木曽春慶
「写真」材質の木目が感じられるお盆
木目をきれいに見せるための一発勝負で仕上げる 小坂屋漆器店 小島 貴幸さん(奈良井)「写真」
木曽春慶の特徴は、材質の木目が見えること。完成をイメージして一発勝負で塗ります。下地の木が見え、年輪で歴史を感じてもらうことができます。弁当箱やそばせいろなどが木曽春慶を楽しんでいただきやすいですが、時代に合わせてタンブラーなども作っています。気に入った物があれば、手に取って歴史を感じてください。
「写真」刷毛でごみを取り一発勝負で漆を塗ります。
木曽堆朱
「写真」まだら模様の特徴的な色合いのお盆
定番の塗り技法の一つで、特徴的な色鮮やかさが魅力 マルヒデ漆器店 宮原 正さん(木曽平沢)「写真」
木曽漆器の中でも、木曽堆朱は色鮮やかで目を引きます。凹凸のある表面に色漆を何層にも塗り重ねて、削って平らにすることで下の色が部分的に表れ、独特なまだら模様が完成します。これまでは出す色がほぼ決まっていましたが、最近はよりカラフルになってきたと思います。木曽堆朱が好きな人も多く、木曽漆器の定番の塗り技法の一つです。
「写真」道具(タンポ)を使って凹凸を付けています。
塗分呂色塗
「写真」研ぎ出した下地の黒と磨いたつやのある皿
磨き上げて出した高貴なつやを楽しんでほしい 白木屋漆器店 宮原 正岳さん(木曽平沢)「写真」
複数の色漆を用いて塗り分けた後、丁寧に磨き上げることで生まれる鏡面のようなつやのある光沢が、塗分呂色塗の特徴です。磨き上げの作業は複数回行うため時間と手間がかかりますが、魅力ある物にしたいと考えながら58年間作り続けています。乾燥などは自然に左右されるため勘と経験が必須で奥が深く面白い。良いつやや色が出るよう毎日が挑戦です。
「写真」良いつやが出るよう何度も磨きます。
木曽漆器の制作工程
本来30ほどある木曽漆器の制作工程を5工程で紹介します。
木材から形作り「写真」
乾燥した木材を加工し、漆器の形を作ります。漆器によって、加工に使われる木材や使う道具が異なります。
下地付け「写真」
漆に木粉や土を混ぜて「下地」を作ります。下地を付けることにより木地が補強され、仕上がりが美しくなります。
地研ぎ「写真」
下地付けされたお椀は、ざらっとした土の手触りがします。中塗りの前に表面を砥石(といし)で水研ぎし、滑らかにします。
中塗り・研ぎ「写真」
精製した漆を塗り、乾燥後に表面の小さなごみや傷を研ぎ去ります。複数回繰り返し、滑らかな表面を作り出します。
上塗り・加飾「写真」
仕上げの工程で、ほこりが付かないよう注意して漆を塗ります。漆器により貝の装飾や、絵の描き入れ(加飾)をします。