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広報塩尻令和6年10月号テキスト版 2ページから13ページ

ページID:0046492 更新日:2024年9月26日更新 印刷ページ表示

広報塩尻2024年10月号テキスト版2ページから13ページがご覧になれます。

特集 ワインを育てる人 ワインが育てる塩尻「写真」「イラスト」

 塩尻ワインの歴史は130年以上。今では、15社1高校のワイナリーがあるほど日本有数のワイン産地となっています。ワイナリーが増えた要因の一つである「塩尻ワイン大学」。その卒業生や現在の受講生、未来の担い手である高校生は、塩尻のワインやブドウの何に駆り立てられるのか―。今回の特集では、塩尻ワインの魅力に迫ります。

苦難を乗り越えた桔梗ヶ原のワインの歴史

 塩尻ワインの歴史の始まりは明治23年。豊島理喜治が初めて、塩尻市の桔梗ヶ原でブドウ栽培をしたことから始まります。米国系品種のコンコードやナイアガラが桔梗ヶ原の風土によく合い、大きな収穫をあげました。その理喜治の成功を見て、桔梗ヶ原でブドウ栽培を始める人が少しずつ増えていきました。しかし、国が多くの軍事費をかけたものの賠償金がなかった日露戦争の影響を受け、日本が不況となったため、理喜治の農園は閉園してしまったのです。
 明治44年には、林五一が桔梗ヶ原でナシやブドウなどの栽培を始めました。果樹の栽培をしながらも土づくりに奔走し、3年後に五一の農園で初めてブドウが実りました。
 年々、ブドウの木は順調に枝を伸ばし、コンコードやナイアガラなどが収穫され、デラウェアなど新しい品種も積極的に栽培。五一の農園のブドウは出来が良く評判で、お金になるため盗難が後を絶ちませんでした。とげのあるバラを植え、番人を置き、何とかブドウを守りました。
 ブドウの値段がどんどん上がり、桔梗ヶ原でのブドウ生産者はさらに増えていきました。その中に、塩原武雄(信濃ワイン創始者)の父・謙一もいました。時代も後押しし、生食用よりも高く売れたワイン用ブドウ。五一も自分の手でワインを造ることを決心し、上越にいる日本ワインの父と呼ばれた川上善兵衛を訪ねました。善兵衛の成功に励まされ、五一が開園した林農園で初めてのワイン「鷹の羽ポートワイン」を造りました。その後、不況やスペイン風邪の流行など苦難を乗り越え、桔梗ヶ原にワイン醸造会社が次々と設立されていきました。

未来のための塩尻ワイン大学開講

 本市では、市内ワイナリーの協力を得て、ブドウ栽培からワイン醸造、ワイナリー経営までを長い期間かけて学び、担い手を育てる「塩尻ワイン大学」を、平成26年に開講しました。
 塩尻ワイン大学の開講を受け、起業環境の整備としてワイン特区(9ページ参照)を申請し、開講と同年6月に認定されました。製造免許取得の要件が緩和されたことで、ワイナリーを設立しやすくなっています。
 塩尻ワイン大学は現在までに、3期、60人が卒業し、その多くが卒業後も市内外でブドウ栽培やワイン醸造を行うなど活躍しています。そして、令和6年度からは塩尻ワイン大学第4期が開講し、ブドウ栽培などに情熱を持った20人が受講しています。今回は、塩尻ワインの今後を担う「人」に注目していきます。

塩尻ワインの主な歴史

1890
明治23年 桔梗ヶ原で豊島理喜治が初めてブドウ栽培を行う
明治30年 理喜治がコンコードやナイアガラ(米国系品種)のブドウ酒醸造の倉庫建設
明治44年 林五一が桔梗ヶ原へ入植、ブドウなどの栽培を開始
大正8年 林農園の初ワイン「鷹の羽ポートワイン」出荷
大正13年 県内最大のブドウの産地となる(104ha)
昭和27年 林農園がメルロ(欧州系品種)の栽培に挑戦
平成元年 「シャトー・メルシャン信州桔梗ヶ原メルロ」が国際大会で大金賞を受賞
平成2年 井筒ワインが国外の大会で銀賞を受賞
平成6年 信濃ワインが国外の大会で優秀賞を受賞
平成17年 林農園が国外の大会で金賞を受賞
平成26年 塩尻ワイン大学開講 本市がワイン特区に認定
平成28年 全日空国際線で、アルプスのワインを提供開始
1905/07/16
令和6年 日本ワインコンクールで塩尻ワイン49点が入賞、8点が金賞受賞(全国最多)

ワインが人をつなぎ、ワイナリーが地元をつなぐ 信州大学特任教授 鹿取 みゆきさん「写真」

 長野県は日本で2番目にワイナリーが多く、ワイナリーが一番多い山梨県を抜くほどの勢いがあるワインの産地だと思っています。地理的にもアルプス山脈が美しく、景色とワインのイメージを結びつけて覚えている人も多いでしょう。
 その長野県内にある塩尻市は、大手メーカーの産地というイメージやメルロの産地という印象が強くありました。しかし、「カベルネ・フラン」の赤や、いにしぇの里葡萄酒の「リースリング」の白など、今までにはない新しい品種のワインが出てきています。また、片丘地区の斜面にブドウ畑が増え、洗馬地区や北小野地区にもワイナリーが誕生し、産地が広がっています。一つの市の中でもブドウ畑に標高差があり、さまざまな味のワインが造られるようになってきました。これらから、塩尻ワインはもっと多様化していくでしょう。
 ワインは、香りが多様な飲み物で、香りでいろいろなことを思い出し、会話が生まれ、数多くの料理に合わせて楽しめます。会話や料理を楽しむことで、人と人をつないでくれます。
 そして、ワイナリーはまず、地元で愛されていくことが大切です。地元のワインを地元で飲んでもらえることが増えるといいですよね。

プロフィール

 他大学の研究者らと、栽培品種、気候、地質などの要素をデータベース化して「ブドウ栽培適地マップ」を作成中。また、ワインを核としたコミュニティの形成、地域活性化にも取り組む。ワインジャーナリストとしても活躍。 

市内のワイナリー

(1)林農園(1919年醸造開始)
(2)アルプス(1927年醸造開始)
(3)井筒ワイン(1933年醸造開始)
(4)サントリー塩尻ワイナリー(1936年醸造開始)
(5)シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原ワイナリー(1938年醸造開始)
(6)塩尻志学館高校(1943年醸造開始)
(7)信濃ワイン(1956年醸造開始)
(8)Kidoワイナリー(2004年醸造開始)
(9)VOTANO WINE(2012年醸造開始)
(10)サンサンワイナリー(2015年醸造開始)
(11)いにしぇの里葡萄酒(2017年醸造開始)
(12)Belly Beads Winery(2018年醸造開始)
(13)霧訪山シードル(2019年醸造開始)
(14)DOMAINE SOURIRE(2019年醸造開始)
(15)丘の上 幸西ワイナリー(2019年醸造開始)
(16)Domaine KOSEI(2019年醸造開始)
「イラスト」「QRコード」

卒業生がワインを育てる

 日本ワインコンクール2024で、「いにしぇの里葡萄酒」の稲垣雅洋さんが金賞に輝きました。塩尻ワイン大学の卒業生で初の快挙です。稲垣さんら塩尻ワイン大学の卒業生で、現在もブドウ栽培やワイン醸造で活躍する人に、塩尻ワインや塩尻ワイン大学への思いを聞きました。

仲間と切磋琢磨。念願の金賞を受賞 第1期卒業生 いにしぇの里葡萄酒 稲垣 雅洋さん(北小野)「写真」

衝撃を受けた塩尻ワイン

 東京の料理店で働いて10年。故郷で地元のワインが飲めるお店を開きたいと思い、塩尻市に帰ってきた稲垣さん。2006年に塩尻駅前でワインバーを開業した。
 Kidoワイナリーを設立したばかりの城戸亜紀人さんと、ワインバー開業の前年に出会った。「市内で世界レベルのワインを造られていて。もしかして、自分でも造れるかもと思いました。ワインバーの開業と同時期に、北小野の畑にブドウを植えたのがワイン造りの最初です」

塩尻ワイン大学の在学中に、副業で始めたワイナリー

 ワインバーが軌道に乗ってきた。「製造免許を取るには、通常は年間8000本以上を造る必要があるけど、ワイン特区なら3000本の製造でいい。自分の店での提供と酒屋への販売でさばけると思っていました。2013年に、塩尻市にワイン特区の申請について聞き、希望者がいれば申請すると答えていただき、翌年から塩尻ワイン大学を開講することも教えてもらいました」と、受講の経緯を話してくれた。
 その後、塩尻ワイン大学を受講した。「全国から集まった同じ志を持つ仲間ができたこと、栽培や醸造の知識を得られたこと、たるや機械など設備の業者を紹介してもらえたことが今につながっています。税務関係の手続きを学べたことも良かったです。ワイナリー立ち上げの導入として非常に助かりました。同期とは今でも月一で勉強会をしていて、同時期にワイナリーを始めた人や同じ悩みを持つ人と相談できています」
と、塩尻ワイン大学を振り返った。
 2017年、塩尻ワイン大学4年生の時にワイナリー「いにしぇの里葡萄酒」を立ち上げた。「リスクもあり先が見えないため、立ち上げの時は家族で話し合いました。金銭面では、初期投資を抑え、少しずつ設備を増やすよう借り入れの計画を立てました。また、並行して飲食店を続けていたので、最初は副業ワイナリーなんて言っていたんです。初めからワイナリーに全振りすると相当リスクが高かったですから」。コロナ禍だったことや、ワイナリーの利益が出てきたことから、2021年にワインバーを閉めた。

念願の金賞受賞と今後も挑戦し続ける姿勢

 2024年に日本ワインコンクールで赤ワインが念願の金賞受賞。「コロナ禍になってから開催されていないですが、過去のコンクール後はホテルで試飲会があり、飲食店をやっていた時に行ったことがあるんですよ。金賞受賞のワインは会場の真ん中で直接提供できる場所が与えられ、銅賞だと周りにワインが置いてあるだけ。2020年に銅賞を取ったけど、反響は特になく金賞に憧れていました。今年は、東京で金賞受賞者だけの試飲会があり、念願叶い参加することができました」と笑顔を見せる。
 塩尻ワインの現状について「品質が高く、コスパに優れていて、老舗からも学べるのでワインの産地として良い地域だと思います。ただ、全国的なアルコール離れにより消費者が減少しています。ワイナリーやイベントなど供給が増えているため、さらに認知してもらうことが大切です」と指摘。「新しい人が新しい所でブドウ栽培を始めていて、産地が形成されてきているので、地区ごとの特徴を言語化できれば消費者にとっても魅力的な産地になると思います」と、今後のワイン産地である塩尻市に期待を寄せる。
 「良いブドウが採れないと良いワインができない。収穫時期を調整するなど品種の個性を出せるよう研究しています」と、ワイン造りへのこだわりと熱い思いを語る。今後挑戦したいことを聞くと、「北小野地区に合った品種を探したいと思っています。品種特性をいかに引き出せるか。最初に植えた品種のピノ・ノワールで、個性を出したワインを造れるよう力を入れていきます」。今後も稲垣さんの活躍から目が離せない。
写真「ワイナリーの名前の由来は、稲垣さんの旧姓である古田さんの「古(いにしえ)」と、フランス語で始まりを意味する「initier(イニシェ)」から。」
写真「金賞受賞のワイン。ラベル作成はデザイナーで妻の江里奈さん。」

ワインの敷居を高くしたくない 第2期卒業生 橋本 美範さん(宗賀)「写真」

 東京でブドウ栽培とワイン醸造のボランティアをしていたときに、塩尻ワイン大学を知り、応募しました。3年かけて栽培や醸造をしっかりと学べたことはもちろん、地元の人とのつながりを持て、同期やワイン仲間ができたことがとても良かったです。
 市のサポートもあり片丘地区に畑を借りて、ブドウ栽培を始めて5年目になります。片丘地区は新しいブドウの産地で、景観も良く、気候や土壌など環境がブドウ栽培に適しているので、栽培する人がもっと増えるよう仲間と一緒に盛り上げていきたいと思っています。今は委託醸造により自畑のブドウでワインを造っていますが、製造免許が取得できれば同期とワイナリーを立ち上げる予定です。普段の食事で気軽に飲めるような地域のブドウで造る「地域還元ワイン」の提供もしたいです。
 塩尻市は日本有数のワイン銘醸地。ワインにもっと親しみ、ワイン文化を楽しんでもらえたらうれしいですね。

今も生きる、人とのつながり 第3期卒業生 広瀬 尚克さん(東京都)「写真」

 塩尻ワイン大学では、地域と関わる機会に恵まれ、その経験を通して塩尻の魅力を学びました。多くの人に会い、いろいろな所に行き、そばを打ったり農家と交流したり―。
 東京都在住の私は、卒業後に塩尻市内の畑を借りてメルロを栽培しています。ブドウ栽培は実が着くのに約3年、良いブドウになるにはさらに数年かかります。私は地元の農家からブドウ畑を引き継いだので、1年目からワイナリーに出荷できました。この畑や指導していただける方と巡り会えたのも、塩尻ワイン大学で得た人とのつながりがきっかけでした。
 塩尻市は、ワインの産地として老舗のイメージを持たれるようになってきました。そこで、塩尻ワイン大学卒業生による新興ワイナリーが出てきている「新しい産地」をアピールできると良いですね。大手・老舗・新興ワイナリーのそれぞれに特徴があり、バラエティー豊かな塩尻ワインの魅力を広めることを、今の受講生に期待。私も塩尻市に貢献したいと思っています。

未来の担い手を育てる「写真」

 今年度から開講した塩尻ワイン大学第4期。初年度は栽培について学んでいます。受講生はどんな思いで受講し、講師が受講生に伝えたいことは何か。塩尻ワイン大学への思いについて聞きました。

昔からのこの景色を守りたい 第4期受講生 真田 大樹さん(東京都)受講生「写真」

 実家が宗賀にあり、父がブドウ園を営んでいて、市内のワイナリーにブドウを卸しています。そのため、塩尻ワインは小さい頃からなじみがありました。棚の戸を開けたら、一升瓶のワインが入っていたのを覚えています。そのワインを祖父が、湯飲みで晩酌していた光景は懐かしいですね。
 現在は東京に住んでいて、たまに塩尻市に帰ってきています。帰ってくるたびに家の周りにあったブドウ畑が減り、住宅に変わっているように思います。
 子どもの頃から見てきた、玄関を開けた時に外に広がるブドウ園の景色。その景色を残したいと思い、塩尻ワイン大学を受講しています。将来は父の跡を継ぎ、ブドウ園を続けていきたいと思っています。また、地元のブドウ園で栽培している人の多くは、70歳代くらいの私の親世代。後継者がいない所もあります。後継者がいないブドウ園であっても、私が、その後を引き受けられるようになりたいと考えています。生まれ育った場所なので、周りの人とも昔から顔なじみのため、安心して任せてもらえると思います。
 管理するブドウ園が多くなり、一人で管理することが難しくなったとしても、塩尻ワイン大学で一緒に学んでいる同期と、ブドウ栽培に取り組んでいきたいと思います。「写真」

塩尻ならではの栽培に生かす 第4期講師 榎本 登貴男さん(軽井沢町)講師「写真」

 フランスでブドウ栽培やワイン醸造について8年ほど学び、DNO(フランス国家認定醸造士)を取得しました。
 日本では発酵については昔から研究されていて、醸造の技術は進んでいると思っています。しかし、栽培については科学的な根拠がなく、経験に頼ったものとなっていると感じていました。栽培においても、科学的根拠のある知識を伝えていくことで、栽培技術の向上が図れると考えています。塩尻ワイン大学では長期にわたる講座のため、全体的に教えられることがとても良いです。第4期の受講生は、ワイナリーで働いた経験がある人や農業を知っている人が多く、受講生自体のレベルが高いと思います。
 フランスと日本は風土など環境が異なるものの、栽培に使うブドウの品種は同じ。ですから、講義ではフランスでの栽培方法というよりも、ブドウ自体の特徴を学んでもらい、ブドウを理解し、日本の環境に合わせた栽培ができるようになってほしいと考えています。
 第4期生の中には将来、自分の特色を出したワインを造りたい人もいるでしょう。無農薬栽培するとして、農薬の知識がなくて使えないからではなく、知識を学び特徴を知った上で栽培してほしいです。病気のないブドウ作りには、知識が必要なのです。「写真」

写真

「写真」黒とう病に感染したブドウ。4・5月の降雨で病斑部に胞子が多数形成され、雨滴と共に伝染します。
「写真」塩尻ワイン大学学長の遠藤利三郎さん(写真中央)から、ブドウの生育などを学びました。
芽かき前→芽かき後「写真」
必要な新しい芽に養分を集中させるために、不要な芽を取り除く「芽かき」。塩尻ワイン大学第4期では、5月に芽かきをしました。

未来につなぐ高校生「写真」

 市内にある塩尻志学館高校では、座学と実習を通してワインを学ぶ授業を行っています。ワインについて学び、ワイナリーへの就職を目指す塩尻志学館高校3年生竹下葉月さん(岩垂)「写真」と大和 航平さん(北熊井)「写真」に、ワインを学ぶ思いなどを聞きました。

なぜ、ワインについて学ぼうと思ったのですか。

大和さん

 この学校に入学する前は、高校でやりたいことがなく、高校在学中に見つけようと考えていました。塩尻志学館高校を見学した時に、ワイン製造の授業があることを知り、面白そうだと思い、塩尻志学館高校へ進学しました。そして、2年生でワイン製造の授業を選択しました。

竹下さん

 私も、高校を探している時に初めて、塩尻志学館高校がワイン製造の授業をしていることを知りました。ワインの印象は親が飲んでいる物というくらいでした。ですが、ワイン製造の授業は、国語や数学などのような座学だけでなく、農場での実習もできることが魅力的だと思い、ワインについて学びたいと思ったことがきっかけです。

ワインについて学ぶ中で、楽しいことを教えてください。

大和さん

 1年を通してブドウの成長を見られることがとても楽しいです。ワイン製造の授業が2日に1回くらいあり、前の授業で手入れをした時よりもブドウが育っているとうれしいです。特に、結実から着色までの期間が楽しく、ブドウ栽培を経験してから行う収穫と醸造は、座学とは違って新鮮ですね。

竹下さん

 私は一人で黙々と作業することが向いていると思っていて、実習の時はブドウに向き合えていると感じます。ワイン製造の授業は毎日ではないので、ブドウが育っているのを見るたびに、大変だけど楽しくてうれしいです。また、ブドウ栽培などの実習は座学と違い、先生や友だちと一緒に作業できるのが楽しいですね。

ワイン製造を学ぶために行った北海道研修で、印象に残ったことはありますか。

竹下さん

 塩尻市外で、ワイン造りを仕事にしている人と話せたことに刺激を受けました。その土地やそのワイナリーでしかできないものを作ろうとする人が、自然や未来を守って次の世代につなげる姿勢を見られたと思います。私も、情熱を持って、ワイン造りに向き合いたいと思いました。

大和さん

 まず、北海道は塩尻市と気候が違うということを肌で感じることができました。気候の違いによる、仕立てや品種、越冬するための方法などの違いを学びました。ワイナリーそれぞれで違うんだなと見て感じることができました。

ワイナリーへの就職を希望する思いを聞かせてください。

竹下さん

 市外ですが近隣のワイナリーへの就職を希望しています。そのワイナリーはその地域で初のワイナリーで、これからのその地域のワイン産業の中心になっていくと思っています。高校で学んだことを生かして働き、ワイン産業の振興にも関わりたいと思っています。

大和さん

 市内のワイナリーへの就職を希望しています。ワイン造りを通して地域社会へ貢献ができ、働きがいがあると思っています。造るからには、買った人に満足してもらえるワイン、喜んでもらえるワインを造りたいですね。

高校生と学ぶ「ワイン特区」

大和さん ワイン特区って何?

 酒税法における酒類製造免許を取得するために必要な最低製造数量の要件など、法律の規制が緩和される特別な区域(構造改革特別区域)として認定された地域です。
 塩尻市は平成26年6月27日にワイン特区に認定されました。そして、松本市、山形村、朝日村の区域を含めて広域での認定を改めて申請し、令和6年3月22日付けで「桔梗ヶ原・松本ワインバレー特区」として内閣総理大臣から認定を受けました。

竹下さん ワイン特区に認定されると何がいいの?

酒税法の特例により、酒類製造免許を取得するために必要な最低製造数量基準の製造見込数量が緩和され、小規模事業者も製造免許を取得しやすくなります。
 また、酒類の販売には製造と別の免許が必要ですが、ワイン特区で認められた製造場内での引き渡し、直営レストランなどでの提供に、販売免許は不要です。
 ただし、税務署への製造免許の申請手続きは通常どおりです。
■果実酒(ワイン、シードル)の場合
最低6キロリットルの製造が必要「イラスト」→2キロリットルに緩和「イラスト」
 750ミリリットルのワインボトルで換算すると、8,000本の製造が3,000本の製造に緩和されます。

他にもメリットはある?「イラスト」

 他にも、ワイン特区のメリットは次のものがあります。
●新規ワイナリーの設立・集積により、ワイン産地としてのブランド力向上
●栽培農家の高齢化、担い手不足の問題の解決につながる
●遊休荒廃農地の未然防止と農地の有効活用
●ワインツーリズムなどにより、他産業への波及効果

ブドウとワインを守っていくために「写真」 中信ワイナリー協会 協会長 林 修一さん(宗賀)「写真」

 中信ワイナリー協会長の林修一さん(株式会社林農園社長)に、塩尻ワインの現状や課題、今後の展望を聞きました。

後継者不足などで「ワイン」という芸術がなくなってしまう

 私は、ワインは芸術だと思っています。答えがない、人によって見方が変わる、毎回の製造が一回勝負なところに魅力を感じます。
 ワインで使うブドウのコンコードとナイアガラが、後継者不足や価格低下などで生産量が減ってきています。塩尻ワインの始まりである品種が減っているこの状況はまずいですね。ブドウ作りという農業をどうやって守っていくかを考えていかなければならないと思います。

ブドウ作りを守るきっかけに、日本農業遺産へ登録を

 農業を守っていくために、日本農業遺産に登録するのも一つだと考えています。登録してすぐに利益にはつながらないですが、農業を守るために動き出すきっかけになればいいですね。日本農業遺産に登録されたブドウ作りを生かして観光業などにつなげていくことも考えられます。例えば、世界遺産の白川郷は、地域で守っていく意識が高く、観光にもつながっています。ふき替えに必要な大量のカヤを刈るため、地元の中学生もカヤの刈り取りをすると聞きます。将来を担う若い人が地元の産業を体験する機会があることは重要です。塩尻ワインも、中学生ら若い人にブドウの収穫体験をしてもらい、進学などで市外に出たとしても、いずれ塩尻市に戻ってきて農業に就く人が増えてほしい。就農したいと思った時に、すぐにできる環境を整えておきたいですね。
 そして、塩尻ワイン大学は、高齢化が進む中で担い手を育て、後継者不足を解決することに一役買っている事業です。ただ、行政の補助も必要ですが、何と言っても、地域のコミュニティで守っていかなければいけません。

農業を守っていくためには、良い物を作っていくしかない

 これまでは、当たり前のことを当たり前にやっていればよかった。しかし、今は、利益を追及する経済活動を優先した付けで、地球温暖化など環境問題とセットで経済活動を考えなければいけない時代です。農業は、農作物が二酸化炭素を吸収し、環境の維持に貢献するので、これからの時代でも重要だと思います。
 農家が減っている現状から、ワイナリーという農家も淘汰(とうた)される対象になります。たとえコンクールなどで金賞を取っても、その後も大切なんですよね。私たちワイナリーに何ができるかと言えば、淘汰(とうた)されないように、受賞の一本で終わらず、良いブドウ、良いワインを作り続けていくことです。
「写真」朝から稼働させ、1日で約17トンのブドウをプレスし、果汁を絞り出し、ジュースやワインに加工します。

塩尻ワインに触れよう

 ワインに関するイベントや制度、ワインに合う料理などをご紹介します。

イベント 塩尻ワイナリーフェスタ「写真」

 本市でワインを楽しめるイベントの一つ。市内の多くのワイナリーが参加し、たくさんの種類のワインを飲むことができます。お気に入りのワインを探してみては…。

触れる 塩尻版BYO制度「写真」

 日本ソムリエ協会が制定した「ワインの日」にならい、本市も毎月20日を「塩尻ワインの日」としました。20日には無料で塩尻ワインを持ち込めるお店があります。お店の目印はこの看板。
制度の詳細はこちら▶「QRコード」

赤に合う ウナギのかば焼き(サンマのかば焼きでも可)「写真」

 シェフを務めていた稲垣さんいわく「ワインの色とかば焼きなど料理の色が似ていると合う」とのこと。塩尻の赤ワインと合わせてみてはいかがでしょうか。

塩尻ワイン 熱い思いと冷涼な気候が織りなす歴史ある個性 まだ見ぬ個性にも出会ってほしい「写真」

編集後記

 明治23年に桔梗ヶ原でブドウ栽培が始まり、130年以上の歴史がある塩尻ワイン。確かな品質やコスパに優れたワインの数々。今回の特集の取材を通して、ワイナリーの方々のブドウやワインへの熱い思いを知った。新しいワインを造りたい、ワインを通して地域に貢献したい。その思いは、授業でワインを学ぶ高校生にも広がり、将来の生産者になるために歩みを進めている。
 順調に見える塩尻ワインだが、後継者不足が課題として挙げられる。さらに、塩尻ワインの市内での消費量が少ないことも課題の一つ。今まで市内のワイナリーの名前は知っていたけど飲んだことがない皆さん、この特集を読んだ後は、気になっていた塩尻ワインを飲んでみてはいかがだろうか。本市では、ここ数年でワイナリーも増え、ワインの種類も増えている。ふとした時に、自分好みの1本に出会えるかもしれない。
 畑での取材を終えて、家の冷蔵庫に入っている塩尻ワインを飲むと、そのおいしさに改めて感動した。造る人の思いや苦労を知ったことで、口に含んだワインの余韻が長くなった気がした。「写真」