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広報塩尻令和5年8月号テキスト版 6ページから7ページ

ページID:0033878 更新日:2023年7月31日更新 印刷ページ表示

広報塩尻2023年8月号テキスト版6ページから7ページがご覧になれます。

木曽漆器を学ぶ 漆編 漆(うるし) 木曽漆器を支える天然の塗料

問い合わせ 産業政策課産業政策係 電話0263-52-0871
 木曽漆器は、本市が誇る国指定の伝統的工芸品として広く知られていますが、漆器を作る上で欠かすことができない「漆」がウルシの木の「樹液」であることはご存じでしょうか。
 今回は、県内唯一の漆掻き職人である竹内義浩さんへの取材から、木曽漆器を支える天然の塗料「漆」について学びます。

安心安全の天然塗料「漆」

 6月下旬、竹内さんは松本市中山の林の中で、マークを付けた木々の状態を確認していました。塩尻市との市境からほど近いその場所は、木曽漆器工業協同組合が地元の漆を確保するために植樹したウルシ林です。
 ウルシの木は東南アジア、中国、そして日本全土に分布するウルシ科の落葉樹で、樹皮に傷を付けた際に、傷口から分泌される乳白色の樹液が「漆」です。塗料としての漆は、採取後ごみを取り除き、成分を均一にしたり、水分を蒸発させたりする精製作業を経て作られます。漆の大きな特徴を竹内さんは「塗ったときの美しい光沢といった美観だけでなく、酸やアルカリなどの化学物質に強く、耐久性、断熱性、防腐性などにも優れている点」と話します。最近では、抗ウイルス効果があることも科学的に証明されており、漆は安心安全の天然塗料です。

繊細な「漆掻き」の仕事

 漆掻きの仕事は、手間のかかる作業のカンナで的確に傷を付け、染み出て液が通っているごく薄い部分に、専用のカンナで的確に傷を付け、染み出てくる樹液をヘラで丁寧に掻き採ります。傷が深過ぎると木がダメージを受け、樹液が出なくなることもあります。また、天候や環境、傷を付ける場所やタイミングで採れる量が変化するため、「体や感覚を使ってウルシの木の1本1本と向き合うことが大事」と竹内さんは話します。1本のウルシの木から採取できる漆の量はわずか200g。1度に採れる量も限られ、木の回復には1週間程度の休養期間が必要です。秋までの1シーズンに15から18回も現場に通い、県内外で年間200から300本の漆掻きを行います。
 技術だけでなく根気も必要な作業ですが、竹内さんは「やればやるほど分からないことが出てきたり、新たな発見があったりするのが面白くてやりがいです」と笑顔を見せます。

未来につなげる挑戦

 掻き終わったウルシの木は、掻き殺し(伐採)し、切り株や根から出てくるひこばえ(新芽)からまた漆が採取できるよう、10から12年ほどかけて大事に育てていきます。国産漆が不足している中、竹内さんは「少し無理をしてでも自分が管理するウルシ林を増やし、未来につないでいくサイクルを作ることが使命」と真剣な表情で話します。私たちが手にする漆器の背景には、手間暇が必要な自然と職人との共生の姿がありました。竹内さんの挑戦はまだまだ続きます。

漆掻きの仕事は奥深い

竹内 義浩さん(駒ヶ根市在住。50歳)「写真」
 漆掻きは自然が相手の仕事なので理屈だけではうまくいきません。昔から受け継がれる技術とともに「おおらかさ」も必要なんです。
 いずれは、県内で地元の人々向けに自分の経験を伝える研修を開き、後継者育成にも携わりたいですね。
「写真」1 専用の漆うるしかんな鉋で傷を付けます。
「写真」2 じんわりと染み出てくる漆。1回に採れる量はわずか15gほど。毎回、上へ上へと傷を付けていきます。
「写真」3 漆掻きのシーズンは6月から11月初旬。日々変化する木の状態に合わせた作業が必要です。
「写真」4 掻いた漆は、手に下げたタカッポ(掻き樽)に溜めていきます。
「写真」5 表面の漆が乾いて傷口がふさがった様子。

interview 塩尻産の漆でシンボルとなる漆器を作りたい

木曽漆器工業協同組合理事長 小林 広幸さん「写真」 
 組合では竹内さんに、片丘と松本市中山に植樹したウルシの木の管理をお願いしています。国産漆は生産量が少なく価格が高いこともあり、国内で使用される約95%は中国産ですが、竹内さんには、組合が中国から輸入した漆を精製する作業も委託しています。
 国産漆と中国産漆は性質が異なり、国産はウルシオールという樹脂分が多く、硬化する速度が遅いため、塗ると硬く強くなるのが特徴。木曽漆器には欠かせない呂色(ろいろ)仕上げ(鏡面のように磨き上げる技法)に国産漆は必須です。また、その土地で採れた漆を使うとなじみやすく、理想だと感じています。いつか塩尻産の漆だけで、地産地消のシンボルとなるような漆器を作ってみたいですね。
 漆掻き職人の仕事を見れば、職人誰もが漆を粗末にできないと思うでしょう。「漆の一滴、血の一滴」という言葉があるように、貴重な天然の恵みに感謝し、扱っています。

竹内さんが掻いた漆を使用した漆器「イラスト」 漆芸 巣山定一「ならの実飯椀」「写真」

 国産漆は、透け具合がよく、木目をきれいに見せることができるので、自分で黒目(くろめ)(精製)て、仕上げの上塗りに使用しています。竹内さんから仕入れる漆はごみが少なく、漆掻きの技術と品質の良さを感じています。(巣山さん)