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広報塩尻令和4年10月号テキスト版 2ページから15ページ

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特集 私たちが伝える木曽漆器

今、新たな 青春が始まる「写真」

 本市が誇る国指定伝統的工芸品「木曽漆器」のことを私たちはどのくらい知っているのでしょうか。本市の広報アドバイザーに就任した東京都市大学塩尻高校の生徒と一緒に、400年以上続いてきたその奥深き伝統に迫ります。

木曽漆器の物語

 木曽漆器は、木曽ヒノキをはじめとする豊かな森林資源で作った白木細工(木製品)を丈夫にするため、漆を塗ったことから始まったといわれています。生活雑貨としての木曽漆器は、江戸時代に中山道を行き交う旅人のお土産として、楢川地区の宿場町「奈良井宿」で人気を集め、隣接する木曽平沢を中心に漆器製造が発展してきました。
 現在の木曽漆器をめぐる状況は、生活様式の変化による需要の減少、職人の高齢化や後継者の減少などで、将来への危機感が高まっています。

初めて触れた木曽漆器

 皆さんは木曽漆器にどのようなイメージを持っていますか。今回参加した高校生たちは皆、木曽漆器に触れるのは初めて。「昔のお皿」「値段が高そう」。これは高校生たちが思う木曽漆器のイメージです。高校生だけでなく、漆器に対しては一般的に「高級なもの」「ハレの日に使うもの」といったイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。

まずは「知る」こと

 このような背景がある中、高校生たちは自らの足で産地に赴き、工房や店舗での取材を通し、職人の生の声を聞き、そして実際に木曽漆器が作られる様子を見学します。まずは木曽漆器を知って、触れることから。これから高校生4人の木曽漆器探求の旅が始まります。

就任しました! 行政×高校生 高校生広報アドバイザー

 令和4年度から東京都市大学塩尻高校の生徒に広報アドバイザーとして就任していただき、行政広報の堅苦しさの打破、また、地元高校生の地域への愛着醸成を目指します。今回は、第1弾として「木曽漆器」をテーマに広報塩尻、YouTube、SNSなどの情報発信にアドバイザーとして関わっていただくほか、取材や出演にご協力いただきます。

#木曽漆器の良さを知ってほしい

生徒会広報委員会委員長 福島 七海さん「写真」
 今まで、漆器というものは知っていましたが、木曽漆器には触れたことがなく知りませんでした。学校が所在する塩尻市の特産品である木曽漆器の伝統的な文化を、知っている人にも知らない人にもその良さを伝えられるような活動をしていきたいと思っています

#若い世代に魅力を伝えたい

生徒会広報委員会副委員長 栗生 瑞紀さん「写真」
 私は木曽漆器という名前を聞いたことがあるだけで、実際どんなものなのかは知りませんでした。今後の生活の中で触れることはないと思っていたので、今回木曽漆器に関わる機会をいただけてうれしいです。たくさんのことを知り、私たちのような若い世代に魅力を伝えたいです

#木曽漆器に詰まった魅力を発信

生徒会副議長 馬場 祥子さん「写真」
 木曽漆器は貴重なもので、私たちが伝えるようなものではないという先入観があり、関わりのないものだと思っていました。今回のありがたい機会を通して、木曽漆器に詰まっている魅力を若い世代の皆さんにも、たくさん発信していきたいと思っています

#真の魅力を若い世代に伝える

文化祭運営委員会副委員長 大西 来未さん「写真」
 最初に木曽漆器と聞いたときは、私自身、高額で手の届きにくいものというイメージがありました。今回の連携を通して、そのようなイメージを私たちの活動によって変えて、若い世代の皆さんに木曽漆器の真の魅力を伝えられたらいいなと思っています

木曽平沢の町並み一歩踏み入れば

「アニメの世界みたいだね」「写真」

漆器の町を歩く

 「趣のある町で、落ち着く」そう話した広報委員長の福島さん。実は、木曽平沢に来たのは取材日の今日が初めて。「思った以上に漆器のお店が集まっていて驚きました」
 木曽平沢は、漆工町として全国初の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。たくさんの漆器店が軒を連ね、この地ならではの伝統技術が人から人へ何世代にもわたり、確かな形で地域に息づいています。木曽漆器の産地として、たくさんの漆器と職人に出会うことができる、そんな他の地域とは違う魅力がある町「木曽平沢」。高校生たちの物語がこの町で動き出します。

工房を知る 小坂進うるし工房

モノづくりをしている中で、「使って良かったよ」って それが一番嬉しいんですよ
 「知っていることは全て次の代につなげたいけど、それができていないのが現状。今回、高校生たちが取材に来てくれてすごくありがたいです」と、優しい笑顔で高校生を迎えてくれたのは、小坂進うるし工房の小坂進さん。
 2階の工房に上がると一瞬にして木曽漆器の世界が広がりました。「自分で形から作りたいという思いがあって、木地の制作からやっています。モノづくりが楽しくて色んなことを試しています」と目を輝かせる小坂さん。実際の制作の流れについて教えてもらいます。漆塗りのカップに触れて「紙かと思うほど軽い」と大西さん。高校生たちは知らない世界に驚くことばかりで、小坂さんへの質問が止まりません。鮮やかな色や貝殻を生かして作った漆器に触れ、木曽漆器へ新たなイメージを持ち始めました。「職人さんが作った段階では、完成度は80%くらいで、残りはお客さん自身が使うことで漆がなじんで仕上がっていくという小坂さんの言葉に木曽漆器の魅力が詰まっていました」と福島さん。木曽漆器探求の旅はまだまだ始まったばかりです。
1 小坂さんから木曽漆器の制作について教えてもらう高校生たち。「写真」
2・4 小坂さん制作の木曽漆器。「写真」
3 漆やはけなどの道具。「写真」
5 木曽漆器のカップを持って、その軽さに驚く高校生たち。「写真」
6 アクセサリーに貝を使っていることを紹介する小坂さん。「写真」

この仕事は大事なものを修復できる

小坂進うるし工房 小坂 進さん「写真」
 モノづくりをする中で、使っていただけるお客さんに、「こうやって使いたい」と希望をもらうと、何とか作ろうって思えます。これがすごく大切なことだと感じています。それが形になって、実際に「使って良かった」って思ってもらえることがすごくうれしいです。それに木曽漆器は、落として割ってしまったときなどに元通りにすることができます。思い出がたくさん詰まった物が、漆で元通りになった時のお客さんの喜んだ顔が忘れられないんですよね。
 木曽漆器は世に出たときは80%、使うことでつやが出たり、色が変わったりして100%の仕上がりになります。これからもいろんな意見や依頼をもらいながら、私たち作り手と使う人で一緒に作り上げていきたいと思っています。

profile

18歳より漆工に従事し、漆芸、蒔絵を習得。自身の作品制作に加え、金閣寺をはじめとする文化財修復にも従事。日々の生活で楽しんで使ってもらえるよう、思いを込めたモノづくりにこだわる。

お気に入りみっけ「写真」

内側の3色のグラデーションがすごくきれい!色味もお気に入りです。

歴史に学ぶ ちきりや手塚万右衛門商店

新しい、古い、ではない 時代に合ったものを取り入れる

 「新しい、古いではなく、時代に合った感性が重要だと思っています」そう語るのは店主の手塚英明さん。2件目に訪れたのは、木曽漆器の伝統技術を守りつつも、カラフルでかわいい絵柄の漆器が並ぶちきりや手塚万右衛門商店。7代目店主の英明さんと、漆器に絵や模様を描く蒔絵師の希望さんの親子が高校生を迎えてくれました。
 店舗内には江戸時代の漆器などを展示する資料館もあり、昔と今の漆器の違いを見ることができます。「漆の一滴は血の一滴」と言われるほど漆が貴重であることなど、高校生は英明さんから木曽漆器の歴史を学びます。また、店舗内の作業スペースでは希望さんの蒔絵作業を見学しました。「漆器になじみのない若い人にも手に取ってほしくて、漆器のイメージとは少し違う色味を加えたり、絵柄を入れたりしています」と語る希望さん。希望さんが生み出すかわいらしい漆器に高校生の目がキラキラと輝きます。「歴史があるものをかわいいと思えることってすごいことだと思うんです」と馬場さん。自分の知らない世界を知って、さらに木曽漆器の世界に魅了されていました。
1 店主の手塚さんから木曽漆器の入れ物について説明を受ける高校生たち。「写真」
2 娘の希望さんが漆塗りのうちわに蒔絵を施す様子を興味深く見学する高校生たち。「写真」
3 木曽漆器を見つめる大西さん。「写真」
4 蒔絵をする希望さん。「写真」
5 顔料を混ぜたカラフルな漆。「写真」
6 お気に入りの逸品を探す高校生。「写真」

ちきりや手塚万右衛門商店 手塚 希望さん 英明さん「写真」

始めたら楽しくて惹かれていった 希望さん

 漆器や絵の勉強をしていたわけではなかったので、自分が木曽漆器を制作するとは思ってもいませんでした。何か作れたらいいなという気持ちで始めましたが、今はやればやるほど木曽漆器の魅力にはまっています。木曽漆器は高級品といったイメージがありますが、中にはインテリアとしてもかわいいと思ってもらえるものもあります。新しいイメージを持ってもらいたいです。

幅広い分野の人が集まってほしい 英明さん

 レトロなものでも、高校生の皆さんなどの若い人にとっては新鮮なものもあります。新しい古いということではなく、時代に合ったものを取り入れていきたいと思っています。また、これからは漆器にとらわれずにモノづくりの人が集まってクラフト村みたいなものができたら面白いですよね。新しい分野の人が集まって、新たな客層が増えて広がっていけばいいなと思います。

profile

創業から約200年の歴史を受け継ぎ、7代目ちきりや万右衛門を継承した店主の英明さんと、蒔絵師で娘の希望さん。伝統を守りつつ、時代に合わせた新しい感覚を大切にする漆器作りで木曽漆器の発展に寄与している。

お気に入りみっけ「写真」

丸いフォルムとつやつやした感じ、かわいい絵柄がお気に入り。
インテリアにも良さそう!

漆とガラスの融合に学ぶ 丸嘉小坂漆器店

木曽漆器の価値 職人の価値を上げる連鎖を広げたい

 お店の扉を開けると、優しい日差しに照らされてこれまで見てきたものとは全く違う漆器たちがキラキラと輝いていました。続いて訪れたのは、丸嘉小坂漆器店。木地制作から塗り、絵付けまで伝統的な漆器作りを行いながら、漆塗りガラス製品の先駆けとして、そのブランド化に力を入れてきました。「ガラスにはない色合いを漆で表現し、漆器にはない透明感をガラスで表現しています」と話すのは、代表取締役の小坂玲央さん。先代が、経済の悪化で仕事がなくなったときに開発した技術で生まれた商品でした。今は、「漆硝子」と呼んで商品の企画からPR、お客さんに届くまでの全ての工程を自社で行っています。工房での失敗が許されない手作業に、高校生たちは息をのみます。一方、店舗では色鮮やかで輝く漆硝子に触れ「光の加減など、ガラスならではの特徴があってすてき」と栗生さん。いろんな色があり、自分が好きなアイドルの“推し色”を発見したと喜ぶ高校生たち。高校生目線の木曽漆器の魅力がそこにありました。
1 小坂さんから漆の塗り方について聞く高校生たち。「写真」
2 一つひとつの木曽漆器をじっくり見る馬場さん。「写真」
3 ろくろを使ってガラスに漆を塗る様子。横向きはろくろを使い、縦の線はフリーハンドで行う。「写真」
4 店舗に並ぶ、ガラスと漆が融合した木曽漆器。「写真」
5 ワイングラスを覗き込む高校生。「写真」
6 大西さんのお気に入りでもあるガラスのお盆。「写真」

お気に入り「写真」

飲むときに、中に景色が広がるのがすごく良い!自分の好きな色も発見!

お気に入り「写真」

光の屈折を利用したガラスの模様がすごくきれいでおしゃれ!

木曽漆器に関わる人が一人でも増えてほしい「写真」

丸嘉小坂漆器店 小坂 玲央さん「写真」
 木曽漆器はまだまだ認知度が低いと感じています。多くの人に認知されていくためにも、職人同士で技術を高め合いながら木曽平沢という産地を盛り上げていきたいと思っています。お客さんの手元に木曽漆器が届いて、その価値に気付いてもらえるということは、職人の価値が高まるということ。職人の価値が高まる連鎖を広めていきたいですね。そんな思いで新たな製品の企画や、デザイナーさんとの取り組みなどに力を入れてきました。現在、木曽漆器業界に入ってきてくれる人が少なく、担い手も減ってきている深刻な状況です。少しでも漆、漆器、木曽漆器に興味を持ってもらって、担い手もしくは伝えていく人が一人でも増えていってほしいです。

profile

1945年創業の丸嘉小坂漆器店の3代目。硝子に漆を塗る技術を開発した先代に続き、「美しく、誠実で、ドキドキさせる漆硝子」をコンセプトにブランド「百色-hyakushiki-」を立ち上げ、木曽漆器の産地で新しい挑戦を続けている。

対談 職人×高校生 高校生が聞く“木曽漆器”

つくる 漆器は作り手と使い手がいてつくられていくもの「写真」
つかう 和食だけじゃない、洋食にも合うんです「写真」
木曽漆器工業協同組合 理事長 石本 則男さん「写真」
高校生 広報アドバイザー 福島 七海さん「写真」

触れてみて分かること

福島さん 私自身、木曽漆器に触れるのが今回初めてで、最初は昔ながらのもので今の若い人たちにはなじみにくいのかなと正直思っていました。でも、工房や職人さんの取材を通じて、色が鮮やかなものや、模様がきれいなものなど、皆さんいろいろと工夫をされていて、若い人たちにも親しみやすいものなんだということはすごく感じました。
石本さん 漆は歴史が長い分、時代をいくつも超えてきているので、その時々の人たちの目に合うものをみんなで努力して作ってきたから、こうして何百年も続いているんですよね。
福島さん 「かしだしっき」を使ってみて、一番最初に思ったのはすごく軽くて扱いやすいということです。普段使うお皿を木曽漆器に変えるだけで、料理が華やかになり、また違う感じに見えるところが良かったです。
石本さん そう言ってもらえるとうれしいです。私も漆が大好きでこの仕事をしていますが、手触りや口触りが優しいんですよね。でも、その部分をどのように伝えていくのかが難しくて。生の温かみを知ってもらうためにも福島さんのような若い人たちに1回使ってみてもらいたいですよね。

知りたい木曽漆器のこと

福島さん 実際に使ってみて、お皿の扱い方が気になりました。
石本さん 電子レンジと食洗機が使えないことを除いては、普通の食器と同じように使ってもらって大丈夫です。高級なものだという意識から漆器を使うときは何か気を付けないといけないと思う人が多いんですよね。でも、怖がらずにどんどん使ってもらうとありがたいです。万が一、長いこと使って傷がついてしまっても、塗り直しができるのが漆器の魅力ですからね。

人にも環境にも優しい木曽漆器

福島さん その他の木曽漆器の魅力を教えてもらいたいです。
石本さん 木曽漆器の特徴として、小さなものから大きなものまで何でも塗れる職人の技術力と適応力が挙げられます。こうした技術は、最近では文化財の修復や陶器の金継ぎなどにも生かされています。また漆器は、漆をはじめ使用する材料も天然のものが多く、人にも環境にも優しいんです。漆は、使えば使うほど透明感が増し、つやが出たり、色が変化したりするんですよ。経年変化を楽しめるんです。物を大切に使う意識が高まりつつある今の時代に合っているのかなと思っています。

人口減少。担い手不足の現状

福島さん 取材を通して、人手不足が問題になっていると聞きました。その他に産地での問題はありますか。
石本さん 一番の悩みは、人口の減少ですよね。特にこの地域は高齢化率が高く、人口減少も激しいんです。また、後継者不足も難しい状況が続いていますが、今はクラフト作家や漆に関心のある人々が気軽に入ってこられる環境を整えられれば産地にも活気が出るのではないかと思っています。あとは、生活様式の変化による漆離れも深刻ですね。福島さんの世代である、「Z世代」といわれる皆さんに好んでもらえるものを作っていかないと売れなくなってしまう。売れなくなるということは、木曽漆器の伝統が守れなくなるということです。福島さんはどんなものが「かわいい」とか「写真映え」すると思いますか。
福島さん 色が鮮やかだったり、グラデーションになっていたりするものを見ると、きれいだなと思いますね。でも、昔ながらのいわゆる木曽漆器らしいものも、それもまた良くて、失ってほしくないものですね。逆に私たち若者に期待することはありますか。
石本さん まず木曽漆器を知らない人が多いと思うので、知ってもらって後世に伝えていってもらいたいです。木曽漆器は職人だけで作り上げるものではなく、作り手と使い手がいて、作られていくものですからね。

石本則男さんプロフィール「写真」

伝統工芸士(加飾部門)。昭和43年より漆工界に入り、産地内では沈金技法の第一人者。木曽漆器の普及PRのため、各地の講座などに出向き、自身の技術や知識を惜しみなく伝授するなど、産地振興と後継者育成に注力している。令和2年には、長年の功労が認められ、瑞宝単光章を受章。令和3年からは木曽漆器工業協同組合理事長を務める。

福島さんも使ってみた! 木曽漆器のレンタル「かしだしっき」「写真」

 木曽くらしの工芸館では、木曽漆器の新しい取り組みの一つとして木曽漆器をレンタルできる「かしだしっき」を行っています。1枚から貸し出しを行っていますので、この機会に漆器を食卓に取り入れてみるのはいかがでしょうか。バラエティ豊かなサイズの器を揃えています。
※料金などの詳細は、お問い合わせください。
■申し込みおよび問い合わせ先 木曽くらしの工芸館 電話0264-34-3888

木曽漆器の未来のために

自分たちの手で育てる。「写真」

木曽漆器青年部 部長 岩原 裕右さん「写真」
未来の子どもたちのために先人が残していく

国産漆が不足。自分たちで植える

 木曽漆器の原材料である漆は、1本の木から採れる量はわずか牛乳瓶1本分といわれるほど、貴重なものです。現在、そのほとんどが中国産で、私たちが所属する木曽漆器工業協同組合では、地元産の漆を確保するため、これまで市内外のさまざまな場所でウルシの木の植樹を行いました。漆を採取するまでに15年以上掛かりますが、これまで植樹したウルシの木も少しずつ成長しています。

未来に向けた取り組みが始動

 今年度から、長野県地域発元気づくり支援金活用事業として、木曽漆器青年部と楢川小中学校が連携した新たな取り組みがスタートしました。その名も「育てる漆器プロジェクト」です。産地の子どもたちに地元の産業である木曽漆器に深く触れてもらうため、給食で使用するトレーを制作・提供し、子どもたちが自ら漆塗りを施して毎日使ってもらうという取り組みです。傷が付いても、毎年一緒にメンテナンスをし、漆の経年変化を感じながら自分だけの漆器に育てていきます。
 私が子どもの頃は、木曽漆器はとても身近にあるものでした。しかし、現在木曽平沢に住んでいる子どもたちの中でも、漆器が家業ではない家庭が増え、身近に木曽漆器がない家庭も増えています。今後、後継者が出て来ないと、この文化は途絶えてしまいます。楢川小中学校の給食では木曽漆器を使用していますが、もっともっと木曽漆器に触れる時間を持ち、深く触れていく中で、成り手、伝え手になる人が一人でも出てきてくれたらうれしいと思っています。プロジェクトの中には、子どもたちが学校にウルシの木を植樹して、管理に携わる計画もあります。今やっていることが自分のためだけではなく、人のため、未来のため、将来の産地のためになると思って作業する体験は、子どもたちにとっても大きな学びになるのではないかと思っています。
「写真」育てる漆器プロジェクトで使用するウルシの木を用意した木曽漆器青年部の皆さん。
「写真」木曽漆器工業協同組合の皆さんが市内でウルシの木の植樹をする様子。

学び、作って、売る。

地元楢川小中学校と木曽漆器

高校生たちは、地元の子どもたちと木曽漆器の関係性を知るため、楢川小中学校を訪れました。楢川小中学校の3から6年生はふるさと漆器学習の時間を使って、木曽漆器伝統工芸士の皆さんから摺り漆という技法を教わる漆塗り体験学習をしています。6年生はさらに、自分たちで漆塗りした木曽漆器を木曽漆器祭で販売してきました。しかし、コロナ禍で昨年度木曽漆器祭が中止となったことから、昨年の6年生が自分たちが漆塗りした漆器を販売する会社「ならにこ漆器会社」を立ち上げました。今年は先輩からその思いを継ぎ、2代目として活動中です。

自分たちの地域を元気にしたい

 小中学生の皆さんは、漆塗りの活動の魅力を語ります。「ずっと立って作業をすることと、かぶれないように長袖で頭や首にはタオルを巻いて行うため、暑いことが大変。でも集中できることが楽しくて、全部塗れたときは達成感があります」。現在は、今までに塗り上げてきた作品を販売するため、パンフレットやホームページの作成をしています。「ならにこ漆器会社を通して地域が活気のある町になればいいなと思って活動しています」。小中学生の思いを聞き、福島さんは「地元の子どもたちがこんなに地域に貢献しようとしている。私たちも何か貢献したいと思いました」と話します。「こうして関わって、ならにこ漆器会社のことを知れて良かった」と栗生さん。伝統的な文化を伝えていこうと地域で奮闘する小中学生の姿がそこにはありました。
1 自分たちで漆塗りした木曽漆器を持つ、ならにこ漆器会社の皆さん。木曽漆器の好きなところは「つやと手触り。他の地域の皆さんにもこの良さを知ってもらいたい」と話します。「写真」
2 ならにこ漆器会社から、サプライズで木曽漆器の箸のプレゼントがあり、喜ぶ高校生。「写真」
3 小中学生がならにこ漆器会社を紹介。高校生から木曽漆器の魅力を質問。「他の器と形が一緒でも、どれだけ思いを込めて作ったかにより他のものとは違うぬくもりがあり、そこが魅力です。」「写真」
4 高校生は文化祭での経験を踏まえ、小中学生に接客やパンフレット作りのアドバイスをします。「写真」

ならにこ漆器会社 みんなで協力しながら活動中

ならにこ漆器会社社長 大前 泰輔(だいすけ)さん「写真」
 木曽漆器は他の美術品に負けないくらいきれいなもので、たくさんの塗り方があります。その素晴らしさを少しでも伝えていきたいという思いで活動しています。また、楢川に住む人が増えて、漆器づくりをもっと知ってもらえれば良いなと思っています。みんなで協力しながら、意見が飛び交う職場です。これからもみんなをリードしながら頑張りたいです。

宿泊施設「BYAKU Narai」 地域、木曽漆器、その魅力を伝えてつなぐ役割「写真」

伝えることで、それが物語になって広がっていく

BYAKU Narai 支配人 高山 京平さん「写真」
 木曽平沢と隣り合う町、奈良井宿には木曽漆器の心強い伝え手がいます。奈良井宿にある築約200年の酒蔵「杉の森酒造」と民宿を改修した宿泊施設「BYAKU Narai(ビャク ナライ)」。本市と株式会社竹中工務店は地域連携協定を締結し、歴史的建物活用まちづくり事業の一つとして、古民家を活用した新規観光拠点の整備を進めてきました。その中でオープンしたこの施設には宿泊棟や浴場、レストラン、酒蔵などがあり、複数の業態で構成しています。

地域に眠る百の物語を伝える施設

 「地域に眠る百の物語をお客様に伝え、劇的な出会いを演出する場です」。施設についてこう語るのは、支配人を務める高山京平さん。奈良井宿を中心にこの土地ならではのさまざまな体験を提供し、宿泊客と地域とのつながりを生む場所を目指しているそうです。
 そんなBYAKU Naraiには、壁を紙漆で設えた客室や、漆塗りのカウンターなど、利用者が触れられる場所に漆が施されており、滞在時間の中で漆を感じる体験を提供しています。また、宿泊客に提供する食事を盛り付ける器や、客室の中でくつろぐためのアイテム、コーヒードリッパーなどにも木曽漆器が使われています。「この奈良井宿の町並みとこの施設がお客様の心に自然と入っていくためには、木曽漆器は欠かせないものだと思っていて、実際にお客様に手に取っていただける機会をたくさん設けています」と高山さん。取材したこの日のディナー8品全てが木曽漆器に盛り付けられていました。
 漆器の魅力について高山さんは「職人さんの言葉を借りると、自然から生まれて自然に返るものということが一番の魅力だと思います。ここに職人さんが関わることでまったく違う顔を見せる漆器に生まれ変わるんですよね」。使っている木曽漆器は、一人の職人のものだけではなく、何人もの職人のものを使っているそう。その理由について高山さんは「作り手によってそれぞれの表現があると思うので、僕たちも使う食材が変わる中でいろんな表情を見せるために、器である漆器もたくさんの職人さんの力を借りています」。

背景にあるものや思いを伝えたい

 施設で使用している木曽漆器については宿泊客の反応に合わせながら紹介しています。「その作品が作られた背景やどんな思いで作られたのかなど、そういうところをお客様に伝えたくて。きっとそこに物自体の価値や、お客様との接点になる付加価値があると思っているんです」と高山さん。実際にお客様が木曽漆器に興味を持ったり、気に入ったりして、直接木曽平沢の工房や店舗に出向いたりすることもあるそうで、宿泊客と木曽漆器や職人との橋渡しの役割を担っています。「ここでしか体験できない、知ることができない、そういったことをお客様に知っていただくことが、まず一つの物語だと思っているんです。今後その物語がお客様のご友人などの周りに伝わって何十にも何百にもなってほしいから、今後も伝えることを大切にしていきたいと思っています」。
「写真」客室。土蔵として漆器が多く収蔵されていたという歴史を継承し、「溜め色の漆」で内装の仕上げをしています。
「写真」かしだしっきの挽き目皿。地産地消をコンセプトにしたレストランでは、木曽漆器と地元産の食材のマリアージュが楽しめます。

奈良井と木曽平沢をつなぐ

奈良井宿・木曽平沢はし渡しプロジェクト「写真」

 奈良井宿と木曽平沢は、旧中山道沿いの隣り合う町です。奈良井宿の宿泊客を木曽平沢に誘導し、木曽漆器に触れて、知ってもらうことを目的に木曽漆器青年部と奈良井宿の宿泊事業者が連携して、「奈良井宿・木曽平沢はし渡しプロジェクト」が昨年始まりました。

木曽漆器の箸がつなぐ「はし渡し」

 奈良井宿を訪れる宿泊客とのコミュニケーションの中で、木曽漆器に興味を持った人に木曽ヒノキの特製漆塗り箸と交換できる引換券を渡すことで、木曽平沢の漆器店や工房を訪れるきっかけ作りをしています。

奈良井宿と木曽平沢の地域の人同士がつながる「中山道モーニングライド」

 はし渡しプロジェクトをきっかけに、生まれた取り組みがあります。「地域の人同士」と「地域の人と外の人」の交流の場になることを目的に、地元の人や宿泊事業者がe-Bikeを使って宿泊客とともに奈良井から木曽平沢間(往復8kmのコース)を毎週日曜日に一緒に走っています。

interview 地元の人と宿泊のお客様、木曽平沢の職人をつなげたい

BYAKU Narai 小澤 敏之さん「写真」
 地元の人と宿泊のお客様、木曽平沢の職人さんたちをつなげることができないかと考えていた時に立ち上がったプロジェクトで、塩尻市観光協会の協力のもと、現在実証実験中です。私は地域の一員として、このサイクリングに毎週参加しています。活動を通じて、奈良井宿や木曽平沢での新しい過ごし方や、地域の人同士のつながり、地域の人と地域外から来た人の交流の場になればと思っています。

これからも守り、伝え続けていく「写真」

福島 七海さん「写真」

工夫しながら継いできた文化
 木曽漆器は、地元の人にとても大切にされている文化だと感じました。昔ながらのデザインを受け継ぐ人や彩りがきれいな漆器を作る人、新しいことに挑戦し続けている人など職人さん一人ひとりがいろいろな工夫をされているところに魅力を感じました。また、小中学生が真剣に木曽漆器と向き合っていることを知り、これからも多くの可能性を見出していき、塩尻市の素晴らしい文化として残していかないといけないと思いました。

栗生 瑞紀さん「写真」

若い世代に発信して残したい
 木曽漆器についていろんなところへ取材をさせていただき、初めて目にするものや、知ることがたくさんありました。木曽漆器で作られた作品を見る中で、私は特にイヤリングがかわいくて気に入りました。イヤリングのような若い世代向けの作品もあるということを、私たちが発信し知ってもらうことができれば、若い世代も木曽漆器に触れる機会が増え、未来に残していけるものになるのではないかと思っています。

馬場 祥子さん「写真」

今後への夢が膨らんだ取材
 今回の取材は、私がもともと木曽漆器に抱いていた思いが180度変わるきっかけになりました。以前は若者世代には使いにくいと感じるものがほとんどだと思っていましたが、パステルカラーや絵が描かれているものがあり、早速私も「使いたい!」と思いました。この魅力をしっかりと伝えていきたいです。今後、私たち高校生と木曽漆器がコラボして、今回の取材で感じた思いが形になったら楽しそうだなと夢が膨らんでいます。

大西 来未さん「写真」

木曽漆器とSDGsのつながり
 今回の木曽平沢での工房や店舗での見学で、木曽漆器は壊れても直してまた使えるといった特長があり、SDGsと深く関わりがあることを知りました。多くの人が持っているイメージとは違い伝統工芸品でありながら、扱いによって時代の最先端を行くこともできるということも学びました。今後も、私たち高校生の感性で動画やSNSを上手に使い、たくさんの人に木曽漆器の魅力を伝えていきたいです。

今後も木曽漆器の魅力を伝えていきます

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秋の木曽漆器祭「写真」

問い合わせ 木曽漆器工業協同組合 電話0264-34-2113
 今年も秋の漆器祭を開催します。2種類の体験ワークショップを実施するほか、ふるもの市やプチマルシェも開催。春とはまた違った雰囲気で、ノスタルジックな町並みをゆっくりと散策しながら、産地ならではの逸品をじっくりと探してみませんか。
■期日 10月22日土曜日から23日日曜日
■時間 午前10時から午後4時
■場所 木曽平沢地区
■内容 ○漆器市 ○職人衆の店 ○平沢プチマルシェ ○ふるもの市 〇ビンテージカーの展示
※新型コロナウイルス感染症拡大状況によって、開催を中止する場合がありますので、ご了承ください。
※詳細は、木曽漆器祭ホームページ(URL http://shikki-shukuba.shiojiri.com/)をご覧ください。「QRコード」

編集後記

 行政の広報は堅苦しい。これは市の情報発信をする上で常に付きまとう課題。そんな課題を解決するため、行政としての新しい広報の形を模索する中で、今回は高校生の皆さんの力をお借りした。
 高校生たちとの取材を終えると、高校生も私たちも木曽漆器と職人さんたちの大ファンになっていた。こんなにも身近にある木曽漆器の魅力に実はまだ気付いてなかった。「作り手が使う人に向けた思いやり」これが木曽漆器の魅力だと思う。無限の可能性が広がる木曽漆器の世界。この世界を多くの市民の皆さんに知ってほしい。そしてこの文化が絶えず続いてほしい。だから私たちはこれからも発信を続けていく